防鳥ネットによる野鳥の羅網事故が多発

野鳥によるレンコン食害を防ぐために、ハス田には防鳥ネットが設置されます。

現実に発生している被害の大きさを考えれば、ハス田に防鳥ネットは必要です。むしろ、防鳥ネットを使用していながら被害を十分に抑止できていないことの方が問題でしょう。

ところが、防鳥ネットで別の深刻な問題が発生しています。防鳥ネットに野鳥がかかって死亡する「羅網事故」が多発しているのです。

毎年、数千羽の野鳥が防鳥ネットの犠牲に

野鳥保護団体の調査では、毎冬数千羽の野鳥が羅網事故により命を落としています。

日本野鳥の会茨城県では、20年以上に渡り、継続的に野鳥羅網事故のカウント調査を行っています。1月下旬から2月下旬までの15~30日間程度、調査員が一定調査地のハス田を巡回して羅網鳥種と件数を記録していく調査方法で、2020年以降も1,049件(202年)、746件(2021年)、556件(2022年)、424件(2023年)の羅網事故がカウントされています。※1)

実際には、この数倍の羅網事故が発生しているものと考えられます。

野鳥の羅網問題が社会問題化

ハス田の防鳥ネットによる野鳥の羅網問題はSNSや報道機関にも取り上げられ、防鳥ネットを使用している生産者に抗議してレンコン不買運動などが行われるなど、社会問題化しています。

2019年には、野鳥保護団体を中心に防鳥ネットの使用制限を要求する請願が県議会に提出されました。※2)

防鳥ネットに代わる効果的な食害抑止対策は?

地元の野鳥保護団体などは、防鳥ネットの使用制限や禁止措置を主張しています。しかし、現状では、防鳥ネットに代わる、効果的な野鳥のレンコン食害対策は見当たりません。

被害の大きさを目の当たりにしながら、防鳥ネットに代わる有効な食害抑止策や損害の補償策等を提示せず、安易に防鳥ネットの使用規制を求める姿勢は、極めて無責任です。

繰り返しますが、野鳥によるレンコン食害は、レンコン農家にとっては死活問題です。防鳥ネットは害悪という単純な図式で解決できる問題ではありません。

羅網事故原因の調査を

これまでの羅網事故調査は羅網鳥数の把握にとどまり、事故原因の踏み込んだ調査・研究は、ほとんど行われてきませんでした。

観察による発生状況の把握には無理がある

羅網事故の発生状況を「観察」によって確認しようという試みは数多くありましたが、これは交通事故の発生を予測して待ち構えているようなもので、実際に野鳥が羅網する場面を観察することは極めて困難です。 そもそも、羅網事故の発生を予測することなど、できるでしょうか?

不合理な調査・研究手法を採用してきたために、羅網事故の発生原因を解明するには至りませんでした。

羅網事故における防鳥ネットの関与状況を探る

野鳥の羅網事故の原因が防鳥ネットにあることは明白です。

ところが、観察による発生状況の把握に重点がおかれたためか、羅網事故における防鳥ネットの関与状況については、「野鳥が網にかかる」という一言で片づけられ、全く調査・研究の対象とされてきませんでした。

本プロジェクトは、羅網事故における防鳥ネットの関与状況について調査し、羅網事故の原因を突き止めることからスタートしました。

1)日本野鳥の会茨城県 機関誌「ひばり」 2020年、2021年、2022年、2023年 各5月号) 数字上は漸減しているように見えますが、調査期間や調査時の農作業の状況、圃場環境などの条件が異なるため、参考程度に捉えるべきでしょう。

2)「ハス田防鳥網に関する請願」 日本野鳥の会茨城県 2019年3月6日提出。